海辺の町リマー

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夕暮れ時のリマーは美しい。 振り向くと、太陽が海に沈むところが見えました。 人々は我が家に帰ろうと明るい顔をしています。港はすでに静かで……、また明日を迎えられるように眠るのでしょう。 灯台の灯りもつき始めました。 商店街は、人々が夕飯を求め、賑わっています。こういうのも元気がよくて、この町の好きなところです。 ああ……、恥ずかしくて怒っていたら、お腹もすきました。 「お腹が空いて、このままでは行き倒れちゃうわ。宿に着いたら、ゆっくりしたーい」 「それくらいじゃ倒れませんよ」とブラウンに笑われました。 「くう、比喩表現ですってば!」 苦笑している王子は私の肩をぽんぽんと叩いて、飴玉を一つくれました。 なんか屈辱……。 ようやく宿屋に到着です。商店が多く立ち並ぶ大通りの一本奥にあるため、酔っ払いの声は聞こえない、静かなところにあります。 宿屋自体は堅牢なつくりで、周りの建物よりもがっちりしている雰囲気です。 ま、まさか……。今、よぎったんですけど、建物が頑丈なのは……、小さいとき魔法が使えるのが嬉しくて、あちらこちらで究極魔法を試していた私のせいかもしれません。 あとでガイソンにちゃんと聞いて、謝らないと。大人の対応ってやつです。 ガイソンはうちにいた厨房長で、うちにいた使用人頭のナディと結婚して、二人で宿屋を開いたのです。 ガイソンは調理に集中したいため、宿屋はナディが女主人になっています。二人はお父様のお父様、つまり先代から勤めていてくれて……、私のことを本当の孫のように叱ってくれる人です。 察してください。私とフィリップの幼少期を……。実験と修行の日々。もう私は大人なので大丈夫ですわ。無理はしません。マジックポケットもあるし! この宿屋は、買い物にも、旅をするのにも便利なため、いつもは満室のはずですが……。泊まれるかしら。 ちょっと不安になりながら、ドアをノックすると、お父様がさきに手配してくれたみたいで、黒くて厚めの木のドアから女主人のナディがいまかいまかと待っていてくれました。 お父様と視察の時に使っている常宿だし、身内の宿なので安心して泊まれます。王子もいるので、しっかりしたところ以外案内はできませんからね。
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