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[三]
眠そうな彼と電車に揺られた先は、それなりに大きな遊園地だった。平日とは言え、人は少なくない。ざわめきの中、私は目を瞬かせていた。
こういった場所に来るのは初めてだし、彼が連れてきてくれるのも初めてだ。もしかして、柄にもなく最終日を楽しんでもらおうとしているのだろうか――そう考えて、横に立つ彼の表情を読み取ろうとしたが、よく分からない。代わりに、
「今度の作品は遊園地を舞台にしたいんだよ」
と彼が白い息を吐くのが見えた。そのままこちらを見ずに遊園地へと入る背を、慌てて追いかける。
入園手続きを終えた先の世界は、綺羅びやかなものだった。軽やかな音楽がスピーカーから鳴り響き、様々なアトラクションが辺りを囲んでいる。普通の歩道では見ないようなカラフルな色で塗り固められた地面を、それなりの人数が行き交っていた。
「おぉー……」
思わず、感嘆が漏れる。どれもこれもが目新しくて、周囲を見渡すのが止まらない。「どれに乗るんですか?」振り向いて尋ねると、彼は少し考えた後に「普通は何から乗るんだ?」と首を傾げた。
――結局、空いていたアトラクションから乗り始め、陽が落ち始めた頃には、殆どのアトラクションを制覇する事となった。ずっと乗るか並ぶかだった為、碌に休憩を取っていない。
人がまばらになった遊園地を眺める彼に、「少し休憩しますか?」と尋ねる。
「……そうだな。最後に、あれ乗るか」
彼がそう指差した先には、色とりどりのゴンドラが吊り下がる観覧車があった。
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