彼と私の出生

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

彼と私の出生

私と一希の誕生日は一日違い。同じ病院で産まれた。どちらも五月晴れの広がる、からりと晴れた気持ちの良い日だったらしい。産まれた時から、保育室で隣同士のベッドに寝かされていた。私は何故だか分からないが、その時の事を朧げに覚えている。新生児の一希は、黒い髪が艶々と輝き、瞳はミステリアスな切長。対照的に、ハーフの私は茶髪のウェーブのかかった癖っ毛で、産まれた時からぱっちり二重。とにかく見た目が正反対だった私達は隣り合わせのベッドで眠っていた。時折、一希が笑う。つられて私も笑う。私が泣けば、呼応する様に一希も泣く。ミラーツインズという現象らしい。それは双子でよく起きる物だそう。私たちは別々の親から産まれたのに、双子と同じ反応をする。 「繭ちゃんと一希君、不思議ね。双子で鏡合わせの様に反応し合う事はあるけれど、違う親から産まれたのに。こんなに仲良しなのは、私の長い医師経験でも珍しいわ」 そう産婦人科のベテラン女医は話していたそうだ。(これは後にママから聞いた)そして私には更なる深い記憶がある。いつか約束したのだ、溢れるような星の下で。ただ、何を約束したのかは覚えていない。けれど私の脳内には大いなる星の下に居る、自分と一希に似た存在がある。信じられない事かもしれないが、それが私の最古の記憶。次に古い記憶は、一希と産婦人科のベッドで寝ているものだ。私たちは前世から、何らかの繋がりがある。私はそう確信している。それこそがこの世界に生まれ落ちた理由なのだ。この世界で過去の約束を果たすために産まれてきた。一希は私の最愛の運命の人であり、私の半身でもある。そう思わざるを得ない何かが私たちにはきっと、あった。だからこそ、余計に私は一希の居ないこの世界には何の意味も感じられない。どうしようもない心の穴は、彼にしか埋められない。今の私は自分が生きている意味や存在があやふやに、ぼやけて見える。 一希の両親は仕事が忙しかったので、毎日の様に我が家に預けられていた。そのせいで私達は三歳になる迄、自分たちを本物の兄妹だと信じて疑わなかった。 これもまた運命だと感じる要因の一つにある。私のパパは大工。とにかく豪快で、ニカッと笑う顔が大好きだった。ママはイギリス人。何故二人が結婚まで至ったのかという経緯は、留学生のママが大学の研究で、パパの作業場に見学に来た時に男気に一目惚れ。そのまま出来ちゃった結婚まで成し遂げた。そんな訳で我が家は割とオープンな家庭であった。ママはパパに愛の言葉を沢山あげていたし、照れ臭そうに父はそれを受け取っていた。二人は一希の事も我が子のように可愛がっていた。今考えれば見た目は正反対だったのにそれすらも感じない程、私と同じ様に一希を扱い、それを一希も望んでいる様に幸せそうに受け入れていた。パパは一希の頭をくしゃくしゃと撫でて、肩車をする。ママは私の手を握り、目を合わせて会話をする。四人でいる時間は心地よく、緩やかに時間が過ぎていく。一希は私のお兄ちゃん。そんな認識になる程、幼少期の彼は私と共に成長をしてきた。 毎年誕生日には12時を挟んで私の枕元には手紙が届く。それは私と一希の写真が入っている。一緒に昼寝をしている写真や、おやつを食べている写真。二人揃って笑っている写真。それは毎年一枚届くのだ。その裏には必ず私のママの字で「Be with you」と書かれている。その写真は一希も同じ物が届く。少し大きくなってからは二人とも、宝箱の中にその写真を入れていた。 一方、一希の家庭はあまり恵まれた家庭では無かったと思う。医者である彼の父は、毎日の様に忙しく家に居ない。時々帰ってきては一希には目も暮れず、また出かけていく。そしてリアリストであり、非現実的な物を嫌う人だった。御伽噺や偶像を無下にし、彼に現実のみを伝えていた。それでいて後から知った事実だが、沢山の愛人もいた。随分と自分勝手な人間なんだと思う。母は雑誌の編集長として仕事中心の生活をしていた。私は起きている時にほぼ会った事がなく、思い出したかの様に夜中に眠った一希を我が家に迎えに来ていた。 一希は裕福な家庭の子供だったが、家庭の愛情を知らなかった。だからこそ、虚無の温もりを我が家に求めていたのかもしれない。私の事を兄妹だと思い込み、私の両親を自分の親だと信じたかったのだろう。 そんな一希の事を子供ながらに私は時々痛々しく、それでもずっと一緒に入れることが嬉しかった。たった一人の、自分の半身の様に一樹に対してある種の愛情を持っていたと思う。その愛情はどんな種類なのか、分からないまま。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!