VRMMOと師匠と私

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数日後、無事にというべきか渉は強制退会となった。 本来なら警察沙汰になってもおかしくはないが、三人で話しそれだけに留めたのだ。 これまで詐欺の被害に遭った人は多いのかもしれない。  だが一緒にバイトをしてきた仲間として、人生を終わらせることまではできなかった。 “師匠! 今から一緒に狩りはできませんか!?” “分かった。 今すぐ行く” それにあれ以来、師匠である丞とも関係が修復し三人でプレイすることも多くなった。 ただし、以前までの優しいばかりのオズワルドはもういない。 【お前たち、ちゃんとやれ! 本気で強くなりたいんだろ? そんな舐めプしていたらすぐにHPが尽きるぞ!】 オズワルドの口調がネットでもリアルでも変わらなくなってしまった。 他の人の前では前のような優しい口調だが、七海たちを前にすると荒い口調になる。  しかし、それが心を許してくれているような気がして少し嬉しかった。 【はい、師匠!】 レベルも順調に上がり、連携も以前より取れるようになった。 もっともオズワルドとのレベルはまだ遥か高みであり、肩を並べることはできない。  少々背伸びをした狩場で二人が必死でブルホットドッグを倒している傍ら、幾多にも死体の山を積み重ねている。 よし次、そう思い戦闘を始めた瞬間、オズワルドが目を見開いた。 【悪い! 俺、いったん放置する!】 【え、どうしてそんな急に!? 何かあるんですか?】 【二人はそのまま狩りを続けていていいから!】 師匠は何も答えることなく消えてしまった。 沙月と顔を見合わせる。 【師匠、どうしたんだろうね?】 【さぁ・・・? まぁ、私たちは言われた通り狩りの続きをしようか】 理由もなしの突然の放置に不可解に思うも狩りを続行した。 だがその時玄関の方から激しい音が聞こえた。 【わッ、何!?】 【ナージャ、どうしたの!? 何、今の音?】 【分からない。 ちょっと見てくる!】 慌てて階段を降り玄関へと向かった。 すると驚くことに玄関が綺麗に吹き飛んでいて大きな空洞ができていたのだ。 外には渉の姿がある。 「渉先輩!?」 「俺のキャラを返せぇぇぇぇ!!」 「えぇ!?」 いつもの優しい渉とは違い彼の周りには黒いオーラが漂っていた。 それで渉に魔法で玄関を吹き飛ばされたのだと分かった。 再び渉は違法な装置を使用し手の中に魔法を集めている。  普通の人間には手に入れられないそれも、不正行為をしていた繋がりで入手することができたのかもしれない。  しかし今はそんな冷静な分析をしている暇はなく、七海は家を守るため装置に向かって飛びかかっていた。 「渉先輩! 止めてください!! ・・・うわッ!」 だが渉の力に及ぶはずもなく七海は突き飛ばされてしまう。 「ぅぅ、痛い・・・」 このまま魔法を使われれば七海は当然死んでしまう。 魔法で身を守ることは不可能ではないが、玄関を吹き飛ばすような魔法から身を守る力は七海にはない。  感覚端末での簡易魔法操作で薄いシールドを張ってはみたが、どの程度防げるのか心もとない。 「よくも俺を強制退会させてくれたな! 今まで注ぎ込んだ金が本当に全て無駄になっちまった。 どうしてくれんだよ!!」 「ッ・・・」 もう駄目だと思い、魔法を食らう覚悟をし目をギュッと瞑った。 しかししばらく経っても、何も起こらない。 恐る恐る目を開けると目の前には丞がいて、渉の装置を持つ手を締め上げていた。 「た、丞先輩!?」 「ったく。 ゲームでも現実でも手のかかる奴だな!」 「ど、どうして丞先輩がここに・・・」 「話は後だ!」 どうやら悠長に話をしている場合ではないようだ。 今は丞のおかげで装置が機能していないが、主導権を奪われれば魔法が発動されてしまう恐れがある。  明らかに正気を失っている渉が大人しくするはずもなく、今も全力で暴れているのだ。 「七海! 警察に連絡をしろ! もう渉を心配している状況じゃないだろ!!」 「は、はい!」 七海は慌てて感覚端末を使い警察に通報した。 それとほぼ同時に、丞が渉の首を締め上げて失神させた。 どうやら魔法の発動は阻止できたようで、そのまま警察を待ち渉は連行されることになる。  後々事情を話すことにはなるが、今は渉を無事連れていくことが優先されたようだ。 「・・・あの、丞先輩。 助けてくれてありがとうございます」 「・・・おう」 「どうして私の家に渉先輩がいるって分かったんですか?」 「渉から『今から復讐しにいく』っていう連絡があったんだ。 俺の家の周りにはいなかったし、七海か沙月の家どちらかだと思った」 「それで、どうして私の家に? あ、詐欺の被害に遭ったからですか?」 「いや。 ・・・自然と七海の家に向かっていた」 「え?」 丞は言った後、自分がどれだけ恥ずかしいことを言ったのか分かったのか、分かりやすく顔を赤くした。 丞はわざわざバイト先まで行き七海の住所を聞いてきたそうだ。  狩りを続けさせたのは、その反応でどちらが狙われたかを判断しようと思ったためらしい。 「ゲームでも現実でも、助けられちゃいましたね」 七海は丞の傍に立つと、ニコリと笑いながらそう言った。 「本当だ。 ちょっとは成長くらいしろ」 「それを見守ってくれるのが師匠の務めなんでしょう?」 「・・・まぁな」 ゲーム内で肩を並べるにはまだ時間がかかるが、リアルでは既に肩を並べて立っている。 しかし、七海は心の中で首を振る。  七海は今、ゲーム内でもリアルでも本当の意味で肩を並べる日が来ることを望んでいるのを感じていた。 「やっぱり丞先輩は、私の大好きな師匠です」 「なッ・・・!」 どうやら二人の本当の始まりはここからのようだった。                              -END-
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