VRMMOと師匠と私

7/8
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「た、丞先輩!? え、ど、どうしたんですか、突然・・・。 今日、シフトないんですよね・・・?」 平然な態度を装おうとしたが無理だった。 丞の正体を知ってしまってはやはり気まずい。 だが丞は何も返すことなく渉のところへと近付いた。 「おい渉。 そこから離れろ。 七海の端末には二度と近付くな」 「え、丞先輩、どうしたんですか!? 渉先輩は今、私を助けてくれてて」 「渉だったんだよ」 「何がですか?」 「七海に詐欺の取引をさせて、勝手に装備を買ったのは」 「え!?」 七海は丞と渉を交互に見つめる。 沙月は驚きのあまり言葉が出ていなかった。 「渉が七海のIDを使ってログインし、勝手に装備を買ったんだ。 それから自分のアカウントへ移すつもりだったんだろ?」 そう言って渉を見る。 渉は黙ったまま何も言わなかった。 「じゃあ、私がログアウトできなかったのって・・・」 「そんなことが起きていたのか? それはおそらく、一時的なバグを渉が仕込んでいたんだ。 IDを盗めるようにな」 「どうして丞先輩は、渉先輩だと分かったんですか?」 「取引は同じフィールドにいる者としかできないんだよ。 二人と離れた後、変に隠れているプレイヤーを見つけてな。 そのプレイヤーに見覚えがあった。 それが渉だったんだ」 渉は溜め息をついて観念したように言った。 「どうしてそのプレイヤーが俺だと分かったの? 俺とはフレンドになっていないよね?」 「昔チラッと渉の画面を見たことがあったからな。 変な名前だったから憶えていた」 「ふーん」 「お前の名前、__は有名だぜ? 超危険者リストに載ってんだよ。 名前が__だけで何もないから逆に目立って憶えやすい」 「・・・そっか」 渉は目をそらして悲しそうな表情をした。 「白状するんだな、渉」 「・・・」 それを七海は見ていられなくなった。 「あの、丞先輩、渉先輩はどうなるんですか?」 「詐欺で物を取引しようとしたり、誰かのIDを乗っ取るのは完全な犯罪。 利用規約に反する。 だから運営に連絡して、強制退会にしてもらう」 「でも、そこまでしなくてもいいんじゃ・・・」 「一番の被害者が何を言ってんだよ。 七海がよくても、これから被害に遭う人が困るだろ」 「ッ、それは、確かに・・・」 「七海、端末を貸せ。 今すぐに__を通報する」 椅子に座ろうとした丞を黙って渉は止める。 「何だよ、今更あがく気か?」 「今まで俺がほぼ全財産をゲームに注ぎ込んできたのに、それを台無しにする気?」 「当たり前だろ。 この結果を招いたのはお前だからな。 安心しろ、店長には言わないでおいてやる。 七海には盗った分を直接返せ」 「・・・」 「沙月、そろそろ時間だろ。 渉を連れて接客してこい」 「は、はい!」 沙月は恐る恐る渉の手を掴み控室を後にした。 二人きりになって丞が端末を操作しながら言う。 「七海は優し過ぎなんだ。 相手が渉だから、先輩だからってそういう気遣いはいらねぇ」 「でも」 「俺は七海にとって師匠なんだろ。 可愛い後輩、弟子が詐欺に遭っているのを見て黙っている師匠はいない」 「ッ・・・! 先輩、変わりませんね」 「何がだ?」 「ゲームの中でも、リアルでも。 師匠が丞先輩だと聞いて最初は驚きましたが、今となっては本当にそうなんだって思えます」 「何だよそれ」 「丞先輩は、どんな時でも弟子思いの優しい師匠なんですよ」 そう言うと丞は耳を真っ赤にして言った。 「うるせぇな! 後は俺がやっておくから七海も仕事に戻れ!」 「えぇ!?」 「運営に詐欺の詳細を書いて送っておくから! 早く行けよ!!」 「丞先輩、相変わらず強引だなぁ・・・」 七海を強制控室から出させた。 一人になった丞は呟く。 「どうして七海が急に素直になるんだよ。 ・・・調子狂うだろ」 七海は丞の見る目が変わった。 そして丞も七海の見る目が少しずつ変わっていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!