楽園

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楽園

『いらっしゃいませー!   ふくろうカフェへようこそー』  「ああーー! かわいい! この窓際の子がもうとんでもなくもふもふで、もふもふで、もふもふすぎて!」 「フフッ。お客様、ここ最近ずっと外で見ていらっしゃいましたもんね。いつ入ってこられるのかと思っていたんですよ?」 「私……めっちゃくちゃふくろうが好きで! ここを見つけてからもうたまらなくって! ずっとずっと入りたかったんですけど、入ってしまうともう後戻りは出来ないと思って……」 「家庭で飼うにはエサのハードルが高いですからねー。皆さん有り難いことに足繁く通って下さるんですよ」 「ちょっとそういうのとは違うんですけど、ですよねー!」 「この子ちょっと腕に乗せてみますか?」 「いいんですか! じゃじゃあ、お願いしたいです!」 「よ……いしょっ。うん、いい子ねー、皮手袋はちゃんとつけてくださいね。ではでは乗せます。はーい、リラックスして下さーい」 「あー……ヤバい。めちゃかわいい……」  気がつけばいつもの牛丼屋さんの昼定食が終わっていた。 「え、うそ!もうこんな時間!」 店長さんがすかさず言った。 「うち、ワンドリンク制ではありますけど時間制限ないので好きなだけ居てもらって大丈夫ですよ」  こうして私のいつもの平凡な日常は崩れ去った。  そして私は日が陰るまでそこに居た。  それ以降はここに来るのが新たなルーティーンになる。  あの日、冷たい私の誘いにのってこれまでのルーティーンを崩した時の感覚は忘れられない。  えもいわれぬ背徳感。  お腹の下の方から込み上げる興奮。  それによって得られた幸福感。  そして今。  私はシロフクロウのコップちゃんを眺めながらその肩越しに写る自分を見た。  窓に触れようと伸ばした手に、コップちゃんが頭を軽く押し付けてきた。  あたたかな命を感じる温もり。     窓に写った今の私は、新たなルーティーンに浸かっているが、心の底から満足している。
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