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いつの間にか知らないおじさん達は、いたりいなかったりしていた。そんな生活が普通でないことは、当然、思春期になると加奈子は分かってきた。
本当の父親に会いたい、そう言ったときあの人は血相を変えて自分の頬をひっぱたいたのだ。
「ガキがっ! 嫌なことおもいださせんじゃねえよ! 」
吹っ飛んで頭を打った自分は何が起こったか瞬時に判断しかねた。無論、母親から心配の言葉などない。
彼女はメイク道具を器用に仕舞うと、小さなアパートの部屋で豪華に着飾り、夜に出ていく。そして、次の日の昼まで戻らないのだ。
どうしてこの人はこんな人生を送っているんだろう?そう疑問に感じたのは、社会に出て間もなくだった。
中卒では求人が少なく探すのが大変で、それ以上に先生への説得が大変だった。
何度も母親を呼び出して、高校へは行った方がいい、と話をしてくれた恩師に向かってあの人が言った言葉。
「早く働いて金を家に入れてくんないと困るんだよ。アンタ、代わりにうちに金入れてくれるんかい? 」
説得していた恩師は唖然としていた。
加奈子は、栖原という名の恩師に光を感じていた。初めて尊敬できる大人に会ったのだった。
しかし、最終的にその恩師は説得を諦め、せめてややこしい所じゃない職場を懸命にさがしてくれたのだった。
なんとか、地元の人がやっている工場でライン作業につく事が出来た。
けれど、普通のライン作業と時給額がわかった時に母から言われたことは、今でも覚えてる。
「アンタ、夜に働けばもっといい額もらえるんよ。ウリはどうや? 」
母親が、自分を金づるとしか思ってないことにショックを受けた。
何度も泣いた。
「あんたなんて母親じゃないよっ! 」
そう言って着の身着のまま飛び出した自分の子供時代。
惨めだった。
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