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加奈子は、今まであった貯金を少しづつ切り崩し、終わりが見えないことに恐怖を抱え、あの人から去る決心をしたのだった。
荷物をまとめて、玄関に手をかけた時のことを忘れられる日はないだろう。
だが皮肉にも最後の一滴の情が、自分を引き止めたのだった。
┈┈もし、ここから出ていけば、あの人は確実に死ぬ。
そして、自分も殺人罪に問われるだろう。
だったら、いっそ。
┈┈┈いっそのこと、殺してしまえばいい。
加奈子は、唯一の情と共に、あの人の寝ている部屋へ戻ると勇んで灯りをつけた。
うっすらと布団の中でひらく目。
視線が交わり、加奈子は布団に近づきそっと腰を下ろした。
「かな、ちゃん。」
何年も呼ばれてなかった名前を耳にした瞬間、加奈子の中に眠っていた獣が次々と湧き出し、その胸から迸るあの人への本音が自分の中の循環している血液に乗り、頭を支配した。
気がつけば母親に股がっていた。
「どうしたの? かなちゃん。」
弱々しい死にかけの虫けらみたいな女はうっすらと笑みを浮かべるとこう言った。
「ごめんなあ、いま、まで。世話して欲しいなんて。おもって。」
その言葉はかなこの奥底にあえて眠らせていた狂気を呼び起こすのに充分だった。
ガっと両手を女の首にかけると全身の力を振り絞って絞めた。加奈子は力を込めすぎて腕がブルブル震え、手の甲に血管が浮き出るのがわかった。それと同時に女の首から上が血色を変えてゆく。
女はなにも抵抗などしなかった。
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