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┈┈┈数年を経て、釈放の日。
門を出るとかつての恩師が刑務所の外へ迎えに来ていた。
加奈子は、目を疑った。
「お前は大変やったのう。迎えに来たで。乗りや。話がある。」
恩師は、母親殺しの自分を車に乗せて走り出した。加奈子は、車に揺られながら何度も謝罪を口にした。本来言わなければならないはずの人はもう居ない。自分が殺めたのだから。
けれどもそんな加奈子を突き放さずに恩師は自宅へと連れていってくれた。
「お前を、養子にする。」
最初、何を言われたか分からなかった。
「ええか、大西。お前は今から栖原加奈子や。書類の手続きを明日からするから今日はこの部屋でゆっくり眠れ。」
恩師である栖原はそういうと、奥さんと2人で食事の用意をしてくれた。
ポカンとする加奈子に、恩師はまたこうも言った。
「あんな、人間ちゅうんは、どんな事があっても必ず明日がくるねん。この世に勝っただの負けただの、くだらんもんは一切ないんや。ただ、自分の毎日を必死に生きる、それが人生やねん。お前は、これからなんや。」
加奈子は、温かい食事に温かな寝床を用意されて眠った。
人生で初めて、他人からの愛情を感じた日だった。
┈┈┈遠くから、母の声が聞こえる。
かなちゃん、たくさん食べえや。
かなちゃん、偉いなあ。算数でそんなに頑張ったんや。
あかんで、そんなに遅くなったら。心配やから。
徐々に、加奈子の目からとめどなく涙が溢れた。殺した時ですら出なかったのに。
自分はずっと、愛されたかったんだ、と初めて気がつくことが出来た。そこに埋もれていた記憶は加奈子の心を丸裸にし、ぐしゃぐしゃになって潰れた自分が惨めだった。
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