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自分の母親を殺したいと思ったのはいつ頃からだっただろうか?
┈┈加奈子は今しがたまで呼吸をしていた骸に目をやった。
かつて母親だった女は、布団で仰向けになり、口からみっともなく泡を吹いている。
激情に身を任せ実の娘に首を絞められた彼女の最期は呆気ないものだった。
自分の手を見つめ、加奈子は8畳1間に敷かれた布団の汚さに目をそらす。
早くからアルコール依存症と痴呆になり、徘徊が進んだ母親は布団で寝ながら糞尿をしていた。
何度も何度も自分がふいて介護をしてやった。
どんなに文句を言っても言い足りない憤怒に飲まれた末の結果だった。ここまでくるのにどれだけ道のりが長かったか。
……散々好きに生きてさ!
┈┈最後によく「ごめんなあ。」なんて、言えたもんだよな。
彼女は、死んだ母親に思い切り唾を吐きかけてやった。
もう一度胸に強い憎しみが首をもたげ始める。
┈┈┈そんな加奈子はしばし目を瞑り回顧し始めたのだった。
◇◇◇
┈┈かなちゃん、よう食べるなあ。
優しい、柔和な声をかけられたのはこの一言だけだったと記憶している。自分が小学校に上がり間もない頃だ。
その頃の母は、好きな男をとっかえひっかえしていた。いつの間にか来ていた当時の知らない男の手前、出た言葉だ。
おそらく、優しさの見栄をはったのだろう。
何度も再婚しては離婚する、それがあの人の趣味だったから。
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