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「了解でーす。いってらっしゃい」
ついにその日の午後。英児は店を任せて龍星轟を飛び出していた。
向かったのはデパート。彼女に似合うコートを探しに行って、ダメモトでそれを届ける!! 嫌な顔をされても、届ける。
そうでもしなくちゃ、気が済まない。受け取ってもらえなくても、せめて嫌な思いをさせたことだけでも謝っておこう。彼女も嫌な思いのまま一夜を過ごしたに違いないから。
何日でも待つつもりだった。でも。翌日の夕、彼女に会えた。
やっぱり英児を窺って、距離を置いて向き合う彼女。それだけで『やっぱ、俺みたいな男じゃダメなんだな』と諦めがついた。
せめてコートだけでも、否が応でも強引に手渡して帰ろうと決めた。
案の定。あんなにお洒落に着こなしていたコートは羽織っていなかった。着古したようなコート姿で、英児はそれだけで本当に心が痛んだ。あんなに似合っていたのに。俺が台無しにしてしまったんだと。
戸惑う彼女が最後に『ありがとう』とやっと受け取ってくれた。間近に来ると、昨夜の匂いがする。でも英児は振り切るようにスカイラインへ乗り込む。
絶対に俺のような男は対象外だろう。俺がどんなに彼女のことを『いいな』と思っても――。
たった一度会っただけの女性。ただそれだけのこと。桜満開の夜、英児はそう何度も割り切って、『琴子』のことは忘れることにした。
忘れた頃に、また会えるとは思わず。でも近寄れずに遠巻きに眺めていたら……。彼女が不自由な母親の世話をしていることを知った。
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