2372人が本棚に入れています
本棚に追加
「おまえらしいなあ」
昔から『おおらかすぎて、人が良すぎて。時々ガードが甘い』とこの師匠に言われてきたが、今朝はまさにそれ。だいぶ『おめえも自分で自分を上手く使えるようになったな』と言ってもらえるようになってきたのに。
久しぶりにやっちまった状態。迂闊だった、予測不足。旦那の不注意? 婚約者の彼女が、愛車のスカイラインに乗って出勤してしまった。
―◆・◆・◆・◆・◆―
秋晴れの国道を銀色のフェアレディZで行く。
中心街から少し抜けた住宅地手前に三好堂印刷がある。英児はそこへ彼女に譲る予定の車で向かっている。
いつもどおりの龍星轟ジャケット姿。秋になり長袖に衣替え。出かけるために作業着ズボンはデニムパンツに履き替えた。いままでそうしていたように、営業先や市外の顧客宅へ訪問する時同様の出で立ちで、彼女の職場へ向かう。
自分はそうして変わらずに、ゼットのステアリングを握っているのに……。
「なんかこの車、すっかり琴子の匂いになっているじゃねーかよ」
つまり。彼女の愛車になりつつあるということ――。
煙草を吸おうと思ったがかわいい匂いがするので、それを汚してしまうようで気がとがめてしまう。煙草も好きだが……、この女の子らしい彼女の匂いもかなり気に入っているから我慢する。
「ほんと、女の子~女子女子ーってかんじだよな。そういう女の子とすれ違う時にする匂い」
独り言を呟くその顔が、フロントミラーににやけて映っていていたのでハッとする。
今でも思う。これって俺の潜在意識だなあと。
最初のコメントを投稿しよう!