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やっぱり先頭を行くのは兄貴の滝田社長。その傍らに琴子先輩。すぐ後ろに武智さん――。紗英はその後を一生懸命ついていく。そんな気分……。なんだろうこの感覚。前をしっかり歩いているお兄さんお姉さんの後を遅れまいとついて行くこんな感覚に、この歳になって出会うとは思わなかった。
しかも。大人になって自立して、一生懸命働く三十代になったと自負したい年頃のはずなのに。
それでも、なんだかこの人達といるとまだまだ『足取りがしっかりしているお兄さんお姉さん達の後をついていくのが精一杯』と感じた。
それだけ、この人たちがしっかり歩いて。また今ある道をしっかり歩いているんだろうなと思わされる。
春の昼下がり。紗英の手元にある白い花も春の匂い。大人のお姉さんからの贈り物、まだ届かない憧れの香り。それを胸いっぱいに吸った。
紗英ちゃん、まだ仕事?
スマートフォンにそんなメッセージが届いた夏の夕。
「あ、琴子さん。紗英です。ちょーっと残業なんですよね」
メッセージを打つよりかけた方が早い。デスクの目の前にある校正すべき原稿に向かいながら、琴子先輩に告げる。
新聞社勤めの紗英。何年経っても不規則な生活を続けている――。
『そうなの。いつ頃終わりそう? 待っているから、うちでご飯食べない? 遅くても待っているから。今日はね、海鮮の鉄板焼き。シメは塩焼きそば。冷たいビールを準備しておくから』
「うわー、美味しそう。うん、じゃあ、頑張っていきます!」
『うん、待ってるね』
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