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プロローグ
子供の名前、どうするかな?
まさか、車の名前とか言わないわよね?
セリカとかセレナとか。あ、セナとかいいなあ。
えー、本気なの!?
女だから、それしかないだろ。
セナは男性じゃない!
お腹の中にいる子は、女の子だと判明した。
そうして名前を『車関係にするのが俺の夢』だと言い張っていたら、女房どころか、従業員にも『よく考えろ』と言われ、矢野じいにも『琴子の意見を無視するな』と言われ、滝田の父親にも大内の義母にも『ちょっと待ちなさい』と引き留められる始末。
お椿さんの祭りが終わった頃。二人の挙式記念日間近に、その子が生まれた。
「お母さん、お父さん。おめでとうございます」
頑張る彼女に一晩中付き添って、朝方生まれた子。汗びっしょりになってぐったり横たわっている琴子に、白い布に包まれたちいちゃな赤ん坊が渡される。
「ちっちゃい……。可愛い」
お腹にいた子。初めての対面。待ちに待ったベビー。琴子が涙ぐんで、その子の頬をつついた。
「ほら、パパも」
琴子に促され、助産師の手添えで英児もやっと、この腕に……。
ちっちゃくて。本当に赤い。赤ん坊。ちゃんと瞬きをしているのを見て、英児もそれだけでドキドキする。
「セナちゃんて呼んであげて」
英児がお腹にずっと呼びかけていた名前。琴子もついに、認めてくれたようだ。
なのに。ちっちゃくて、母親の琴子みたいな優しいぬくもりを知って……英児は。
「いや。小鳥だ」
『え』と目を丸くする琴子。
「セナは腹の中にいる時のあだ名な。今日から、こいつは『小鳥』だ」
「ことり?」
ママの琴子の『コト』をもらって。そしてママがお気に入りの可愛い小鳥柄の眼鏡ケース。
『これ、死んだお父さんが誕生日プレゼントに一緒に選んでくれたの。花柄だけのケースと、花と小鳥のケースと悩んでいたら、琴子は小鳥って、お父さんが選んでくれたの』
あのケースがどのようにして琴子のお気に入りになったのか。それを後から聞いた。
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