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1.どんなに眠れなくても
近頃、ずっと眠りが浅い。ぐっすり眠ったことなどあまりない。でも……。
『ふぎゃあ』という泣き声で、琴子はバチッと目を開ける。
すぐ隣に寄り添って眠っていた息子が、琴子の胸元にしがみついてぐずぐず泣いている。ママが着ているパーカーとその下のタンクトップをめくりあげようとする仕草。
「ううん……。聖児くん、オッパイ?」
寝ぼけ眼で、琴子は自分からお腹から胸元まで服をめくりあげていた。それを見つけたはずなのに、息子の聖児が吸い付くこともしようとせず、ギャンギャン泣き始めてしまい、琴子はやっと起きあがる。
「うーん、ごめん。すぐにオッパイが見つからなくて……ご機嫌損ねちゃったね」
もうすぐ一才になる息子を抱いて、琴子は急いで寝室を出る。
ドアを閉める時、夫と娘の様子を確かめる。『お前のためのベッド』と、つきあい始めた頃に英児が即決で買ってくれた大きなベッド。とても大きかったので、親子四人川の字になって眠れるほど。その窓際に静かに眠る夫とパパの背中にピッタリくっついて眠っている娘『小鳥』の姿。
夫の英児は明日も仕事だし、娘の小鳥も起こさないように……。そっとドアを閉めようとしたのだが。
「琴子、大丈夫か」
夫が目覚めてしまった。
「大丈夫。あっちでオッパイを飲ませてみるから。パパは眠って……」
「泣きやまなかったら言えよ」
それだけ言うと、彼は自分の背中にひっついている娘を見つけて嬉しそうな顔。彼女を今度は胸の中に抱きしめ、満足そうな笑みのまま寝転がった。
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