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パパの腕の中でギャンギャン娘が泣く。
「ふえ、えっ、」
「あー、セイちゃんが起きちゃった」
琴子の胸元の息子も、せっかく落ち着いたのにむずがり始める。
こんな時だ。いつも夫の英児が、パパの英児が、夜なのに目をきらっと光らせる時。
「いくぞ、琴子」
泣き叫ぶ娘を抱いたまま、迷いなく夫は玄関へ向かっていく。
そして琴子も。
「はい」
ぐずる息子を抱いたまま、自分も迷わず夫の後をついて行く。ダイニングテーブルにいつも置いているママバッグを手に持った。
英児が向かったのは、ガレージ。夜中だというのにシャッターをあげて、大型のランドクルーザーへ向かう。小鳥が生まれてすぐにパパが家族用にと探した車だった。
その後部座席のチャイルドシートにぐずる娘を乗せ、琴子も後部座席に乗り込みもうひとつのシートに息子を乗せる。
英児が運転席に。琴子は子供達の横に。エンジンがドルルンとかかると、何故か娘がピタッと泣きやむ。
「もう、やだ。小鳥ちゃんったら」
いつもそう。どうして? これがパパの子供ってこと?
だけれど、英児は運転席でライトを点けながら笑っている。
「しかたねーや。赤ん坊の頃から車に乗せてあちこち走っているもんな」
大きなハンドルを回し、バックでガレージを出て行く。
夜中の二時。静かな龍星轟から、白いランドクルーザーが一家を乗せて飛び出していく。
英児が適当に走り始める。夏が近い真夜中。雨が降ったのか、空気が梅雨らしくむっとしている。しかも雨がぽつぽつ降ってきた。
それでも英児は黙って真夜中の道を、子供を乗せて走る。
でももう。子供達はパパが運転する車の振動が心地よいのか、すやすやと眠っている。
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