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「英児さん。二人とも眠ったわよ」
だから、そこそこで引き返しましょう。貴方も明日、仕事でしょ。そう言いたかったのに。
「気晴らしに走っていいか」
帰るより、彼は運転したいらしい。
「うん、私はいいけど……」
雨なのに。天気も良くなく、だから景色も良くない。なのに英児が海沿いの道へ向かっていくのがわかった。
「おかしいよな。車に乗せると黙るんだ。親父としては先輩のシノから聞いていたけどよ、『夜泣きで車に乗せるのもひとつの手』だって。『まさか』と思ったけど、うちは効果覿面だな」
「そうね。特に小鳥ったら。エンジン聞いただけで泣きやんじゃって」
「そんなとこ。面白いな、子供ってさ」
フロントミラーに映る英児の目。あの優しい目尻のしわを浮かべて、やっぱり嬉しそう。琴子も笑顔になってしまう。
「英児さん、いつもありがとう。こうして、一緒に夜泣きに付き合ってくれて」
本当に子供達に同じように手をかけて、この夫は一緒に子育てをしてくれる。
だが次にミラーに見えた彼の目が、笑みを消していたので琴子はドキリとする。あの、ガンとばすみたいな怖い顔。
「一人きりだった頃を思えば、なんでもねーよ。うるさくてもよ、思い通りになってくれなくてもよ、ぐっすり眠れなくてもよ」
孤独を抱えていた彼だからこそ。どんなに思い通りにならなくても『これが幸せ』。その生活を営んでいるだけのこと。そう言いたいらしい。
「気にすんなよ。俺、好きでやっているんだから」
「うん」
「だから。お前も少し眠っておけ」
……やっと解った。どうしてすぐ家に帰らずに、ドライブをしているのか。私を休ませるため?
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