1.どんなに眠れなくても

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 車で寝付いたばかりの子供達は、暫くはぐっすり。パパが車を走らせている間は眠っている。『その間に寝ておけ』という彼の……。 「あ、ありがとう」 「どっか適当なところ停めて、俺も少し休む。外の空気を吸いたかったからちょうどいいや」  出会った頃から変わっていない気遣い。自分もそうしたかったから、自分がやりたかったから、だから助けただけ。だから気にするなって。  小さな子供ふたりの子育ては楽しいだけでも幸せなだけでもない。苛立ちもあるし、疲れてしまうこともある。それを解ってくれている。  涙が滲みそうだった。 「じゃあ……、お言葉に甘えて」  隣ですやすや眠っている聖児のシートにもたれかかり、琴子は目をつむる。  でも……。夫の気遣いが嬉しくて。泣きそうで。眠れそうにない。だけど、琴子が休む姿を確かめるまで、彼も真夜中のドライブをやめそうにない。だから、嘘でも寝たふりをする。  ディーゼルエンジン音を響かせる大型四輪駆動車は、初夏の雨の中、海辺を走っている。  不思議。雨の音って。車の中でもなんだか心地よい音。ウィンドウに流れる雨、タイヤが散らす水飛沫。  あ、もうすぐ。漁村……。  うっすらと暗闇に見える海、それがどんどん薄れていく。  やはり、琴子も眠ってしまったようだった。    ――バタン。  そんなドアを閉める音で、琴子は目が覚める。  あんなに激しく降っていた雨が小降りになっているようで、窓の外の景色がはっきり見える。海辺。一目で漁村だとわかった。  しかもすっかり夜が明けている。  うそ。どれだけ眠っていたの? 英児さんは? 私が眠っている間、何をしていたの?
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