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車で寝付いたばかりの子供達は、暫くはぐっすり。パパが車を走らせている間は眠っている。『その間に寝ておけ』という彼の……。
「あ、ありがとう」
「どっか適当なところ停めて、俺も少し休む。外の空気を吸いたかったからちょうどいいや」
出会った頃から変わっていない気遣い。自分もそうしたかったから、自分がやりたかったから、だから助けただけ。だから気にするなって。
小さな子供ふたりの子育ては楽しいだけでも幸せなだけでもない。苛立ちもあるし、疲れてしまうこともある。それを解ってくれている。
涙が滲みそうだった。
「じゃあ……、お言葉に甘えて」
隣ですやすや眠っている聖児のシートにもたれかかり、琴子は目をつむる。
でも……。夫の気遣いが嬉しくて。泣きそうで。眠れそうにない。だけど、琴子が休む姿を確かめるまで、彼も真夜中のドライブをやめそうにない。だから、嘘でも寝たふりをする。
ディーゼルエンジン音を響かせる大型四輪駆動車は、初夏の雨の中、海辺を走っている。
不思議。雨の音って。車の中でもなんだか心地よい音。ウィンドウに流れる雨、タイヤが散らす水飛沫。
あ、もうすぐ。漁村……。
うっすらと暗闇に見える海、それがどんどん薄れていく。
やはり、琴子も眠ってしまったようだった。
――バタン。
そんなドアを閉める音で、琴子は目が覚める。
あんなに激しく降っていた雨が小降りになっているようで、窓の外の景色がはっきり見える。海辺。一目で漁村だとわかった。
しかもすっかり夜が明けている。
うそ。どれだけ眠っていたの? 英児さんは? 私が眠っている間、何をしていたの?
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