1.どんなに眠れなくても

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「大丈夫だって。いつもはお前が俺に気遣って、寝室を出て行くだろ。眠りたい時は、俺がお前に甘えて眠っているよ」  さらに抱きしめてくれる長い腕。琴子の身体はすっかり彼の腕に囲われ、ぴったりと胸元にくっついている。  海の匂い、彼の寝汗の匂い。煙草の匂い。いつも変わらない男の匂い。そうして琴子も安心する。  彼の指先が黒髪を愛おしそうに撫でてくれるのも変わらない。そうして彼も、琴子の黒髪に頬ずりをしながら匂いを確かめているのが解る。  お互いの匂いを感じて、確かめ合って、安心したら……。目が合う。そして、目をつむれば、熱くて柔らかくて、甘いものが静かに重なる。いつだって。 「琴子」  彼の唇は煙草の匂い。舌先はちょっと苦くて甘い。そうして愛してくれるから、琴子も負けずに彼を愛す。  そして変わらない彼の手。 「もう、ここ、外……だめ」  と抗議したところで、夫の英児は恋人の頃から変わらず。琴子にキスすれば、それも『ワンセット』をばかりに琴子の乳房を目指して手を突っ込んでくる。  パーカーとタンクトップの下へ滑り込んだ手が、琴子の肌を伝ってのぼり、大きな手が乳房を柔らかに掴んで揉む。そんな相変わらずの手。  キスをしながら、彼の肌への愛撫。海辺の人も通らないような漁村の影で。小雨の中ひっそり交わす夫妻、ううん、男と女のひととき。  だけれど途中で英児が唸った。 「うーん、うーん。俺が好きなオッパイじゃない。早くあのふわふわオッパイに戻って欲しい」  また言いだした。これは最近、彼が琴子の乳房に触れると必ず言うことだった。 「しょうがないじゃない。授乳が終わるまで待ってよ」
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