1.どんなに眠れなくても

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「わかってるけどよー。ママのオッパイなんだよなー。すげえ張っていてでっかくかんじるけど、ふわふわな女のオッパイじゃなくて、パンパンのママオッパイなんだよなー」  そう言いながらも強く揉むんだりするので、琴子はちょっと睨んでしまう。 「もう、おしまい」  不満そうな英児の手首を掴んで、無理矢理離した。 「怒るなよ」 「怒っていません。母乳のオッパイは優しくしてくれないと、張っているから痛いの」 「悪かった。うん、悪かった」  ぷんとそっぽを向く琴子を、英児が捕まえるように背中から抱きしめてくれる。 「もうちょっと待って。セイちゃん、あと少しで母乳から離れると思うから」 「うん。楽しみに待っている」  そうしてまた目を合わせて微笑みあっていると、後部座席からジッと見つめる視線に気がつく。  娘が目覚めていた。それをふたりで気がついてハッと我に返る。 「帰るか」 「そ、そうね」  今度の娘は大人しく目覚めてくれたようで……。  再び車に乗って、小雨の海辺、国道に英児の運転する車が出て行く。 「ママ、あめ」  娘が外を見てそう言った。 「うん。雨だね。小鳥ちゃん」  息子はぐっすり。娘は車に乗っているので、もうご機嫌だった。  海沿いを走っている中、琴子はもうすぐさしかかるあるところを気にして、外に目を向ける。それは運転席にいる英児もおなじ。  ――マスターのお店。もうすぐ。  私達夫妻が披露宴をした喫茶レストラン。海辺にある白い木造の小さなお店。  小雨の中、そこをさしかかると――。 「あ、いま、おっさんがいたな」
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