2360人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな彼の横で、小鳥は息を潜めるようにして、黙って傍にいる。今夜、私はただ傍にいるだけ……。慰めるとか、聞き役になるとか、理解するとか、そんなんじゃない。やっぱり彼はまだ全然、小鳥が及ばない遠くにいる。でも……そっと息を潜めて、傍にいる。彼がたった一人ではないことを、少しでも感じてくれていたらそれでいいから。
だから黙って、ひたすら黙って。でも彼が突き進んでいく夜を一緒に見据える。
車は南部地方に向かっている。こんな夜遅くに、この辺りに来るのは初めてのこと。高速を降りて、瀬戸内を見渡す岬に向かうラインを走り抜け、ついに翔の車はこの半島の先端、三崎町の岬灯台まで来てしまった。
展望台の駐車場に着くと、運転席を降りた翔が、やっと笑顔を見せて伸びをした。
「あー、やっちまった」
いつもの八重歯が見えたので、小鳥もほっとして助手席を降りた。
「未成年連れ去り。親父さんに、クビにされるかな。俺」
落ち着きを取り戻した彼が、それでも笑って、ようやっとスラックスのポケットから携帯電話を取り出した。
「社長、桧垣です。……申し訳ありませんでした」
落ち着いたら落ち着いたで、今度は躊躇いもなく英児父に連絡をしたので、小鳥も緊張して硬直――。
やばい。私もやばい。こんな夜中に、よく知っているお兄さんとはいえ、大人の男性にひっついて、こんな夜中の、こんな遠くまで一緒に来てしまった。
『お前のオトシマエは……!』。つい先日も、後先考えずに起こしてしまったことで、手痛いペナルティを喰らったばかり……。
まさか。今度は……『MR2はお前にはやらねえ』とか!?
「はい、はい。承知しています。本当に、本当に、申し訳ありませんでした」
最初のコメントを投稿しよう!