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密かに顔面蒼白状態になっている小鳥に、翔が携帯電話を差し出していた。
「親父さんが、替わってくれと言っている」
MR2と同じ、青い携帯電話を小鳥は受け取る。もう心臓ばくばく。どうしよう、父ちゃん、すごく怒っているはず! もう恐ろしくて息ができない。
「……父ちゃん」
『オメエ、いま、どこにいるんだ』
思った以上に静かな声だったので、小鳥はなんとか一息つくことができた。
「三崎町の岬」
『はあ!? そっちに行ったのか。どーりでダム湖方面にはいねえはずだわ』
「え、父ちゃんは、いまどこにいるの」
『いま、今治。テメエら、ひっつかまえてやろうと思って、スカイラインで追っかけていったんだけどよ。あてが外れたわ』
父は東部方面、いつも龍星轟の走り屋仲間が集まるダム湖から、しまなみ海道まで行ったらしい。確かに翔兄は、海道の大橋と橋を渡り継ぐコースもお気に入りだった。
そして父も……。心配して、車で追いかけてきてくれていたんだと思うと、本当に申し訳なくなってきた。
「ごめんなさい。お父さん」
涙が出てきた。後先考えない行動ばかりするやんちゃ娘がすることに、こんなに気を揉んで……。振り回されて……。でも、絶対に捨て置かないで、どんな時でも必死になって小鳥を手放さない、その手にちゃんと繋いでおこうと必死になってくれる。
そんな小鳥の反省の意が息だけでも伝わったのか、父の静かな溜め息も聞こえてきた。
『おまえらしくてよお。でもよ、おまえがあれだけ必死になってくれたからよ、翔を止められた気がする。おまえ、翔のことを信じていなきゃ、あんなことできねえぞ』
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