貴方を独りになんかしない。②

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 似合わないというから、そうじゃないよと返したかっただけだったのに。それでも翔兄は微笑みながら首を振った。 「スーツなんて好きじゃないんだ。俺な……、龍星轟のあのジャケットを着られるようになった時の、あのとんでもない嬉しさは今でも忘れない。憧れだったんだ。まるでF1レーサーのチームの一員になれたみたいに。初めて社長を見た時も、すげえ格好いいと思った」 「面接の時?」  彼が首を振る。そして灯台のてっぺんでくるくる回る銀色の大きなライトを見ながら笑った。 「中学の時かな。時々、見かけていたんだ。社長のこと。がっちりしたスカイラインに乗っている、大人の男。俺の実家の近くの道をよく走っていたみたいで何度かみかけた。あんなにきめているスカイラインなんてなかなかないから、いつも一目で分かった。それに街中で見かけるかっこいいスポーツカーのほとんどが、あの龍のステッカーを貼っていた。それが『龍星轟』という店のステッカーで、生粋の走り屋なら必ずあの店に行くこともネットの口コミで知った。そして……。あのスカイラインの兄貴が、『龍星轟の経営者』で、走り屋野郎共のリーダー的存在の兄貴だってことも店のサイトで知った。面接でやっとその人に会えた時、やっぱり震えた。ずっと前から憧れていた……その人と働くこと。……諦められなかったんだ」 「知らなかった……。そんなずっと前から父ちゃんのこと、知っていたなんて」 「うん。社長もびっくりしていた。でも社長の車だけ、本当にオーラが違うんだ。一般人には見分けがつかないかもしれないけど、車が好きな男なら、直ぐ分かるものを社長は持っていたんだ。俺もそれで惹かれた。社長の車は目に焼き付くんだ」
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