2356人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんなの見せつけられたら、頑張ったら俺だって彼女となれると思っていたんだよ。でも違った。やっぱりオカミさんだから……、社長とオカミさんの二人だからなれたんだなと分かった。通じ合えない男と女ではどうにもなれないとよく分かった」
羨ましいよ、社長が。そしてやっぱり社長はすごいよ。
翔兄がやるせなさそうに項垂れ、そこでやっと唇を噛みしめ泣きそうな顔になる。それが俺にはできなかった。瞳子と俺は、できなかった。難しかった。そんなヒリヒリと染みるような痛みが小鳥にも伝わってきた。
「お兄ちゃんっ」
そんな彼に、小鳥から抱きついていた。彼がびっくりして項垂れていた頭を上げ、少しだけ後ずさったのが分かった。
でも小鳥から抱きついて彼の背にしがみついていた。
「お兄ちゃんだけが悪いんじゃないよ。お兄ちゃんは一人じゃないよ。本当に一緒にいたい人じゃないとは思うけど、明日だって、お兄ちゃんには龍星轟の皆がいるよ。父ちゃんだって待っているよ」
分かってる。彼が求めている寂しさを埋めるいちばんの存在ではないことだって。的外れなことを叫んでいるとも……分かっている。
「小鳥……」
抱きつかれて硬直していることも、小鳥はわかっていた。まったく知らない人間に突然抱きつかれて困惑している身体の反応だった。瞳子さんなら、お兄ちゃんは崩れるようにこの肉体を優しく柔らかくするのだろうけど……と。
だけど。そこで小鳥の長い黒髪をつむじからすうっと撫でる感触……。
「ありがとうな、小鳥」
結っていない黒髪を何度も撫でてくれる大きな手。
「一人だったら、俺、どうなっていたかわからない。それに。小鳥も社長も、こんな俺のために、こんなに一生懸命にしてくれることがわかったから」
だから、もう大丈夫。
最初のコメントを投稿しよう!