貴方を独りになんかしない。②

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 彼がそう耳元で囁いてくれた時。今度は小鳥が抱きしめられていることに気がついた。  びっくりして今度、身体を硬くしたのは小鳥。でも翔は優しく小鳥の背中ごと抱きしめてくれていた。 「……暫く、人がこんなに温かいって。すっかり忘れていた」  そして小鳥も、もう力を抜いて彼の肩に頭を預けてしまっていた。  ――初めて聴いた。お兄ちゃんの心臓の音。  微かに肌を伝って聞こえてくる鼓動。そっと目をつむって、小鳥は心の中だけで呟く。  いままで、この人の姿だけを追っていた。毎日傍にいても。遠く感じて、自分には釣り合わない人だと、もっと遠くに感じていた。  でも今、この人は怒ったり泣いたりするし、情けなく戸惑うこともあって、そして心臓がある生身の人だって実感できる。  それはもしかすると……。車ばかりいじってきた翔兄も、同じく、小鳥から『人が傍にいる』と実感してくれているのかもしれない。 「さあ。帰るか」  でも、すぐに離れていってしまう……。まだ一体感のない人。  小鳥の頭をいつものお兄さんの顔で撫でると、彼からMR2へと背を向けてしまう。  だけど、小鳥は微笑んでいた。これでいいの。これで。  お兄ちゃんの心臓の音、私の肌の温度。それさえあれば……私たちは、明日も一緒にいられるよね。  また明日から、毎日。一人じゃない、今日まで一緒にいた人たちと、また一緒にやっていけるよ!    暗い海を照らす灯台の光のように。MR2は再び夜道を明るく照らす方へと走り出す。  一体感ならここにあった。このマシンに二人一緒に乗っている時、二人はこのマシンと一緒に一体になっている。  そしてこのマシンは、もうすぐ小鳥のもの。この人が持ってきた想いごと、乗せてきた想いごと、引き継ごうと思っている。
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