9.恋はお終い、小さくても愛なの①

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9.恋はお終い、小さくても愛なの①

 滝田、顔を洗ってこい!  日本史の勝浦先生にそう言われ、小鳥は席を立つ。  居眠りをしていた。先生の声で目が覚め、自分自身でも自覚していた。  それもこれも。昨夜、大人のお兄さんの車で片道何時間もある岬まで行ってしまったから。  どんなに高速を飛ばしても、小鳥が翔と龍星轟に戻ってきたのは朝方だった。 『はい』と素直に返答し、従う。 「なんだ。今日は。いつもの滝田らしくないな」  注意したものの、勝浦先生も不思議そうな顔。  もしかすると、誰が見てもそう思っているような気が小鳥もしていた。当然の寝不足なうえに、いつもきちんとしている『髪結い』をしなかった。腰まである長い長い黒髪をおろしたまま登校した。  静かに教室の扉を開け、一人きりで出て行こうとしたのだが。 「高橋。お前も洗ってこい」  背中にそんな声が聞こえて、出て行こうとした教室を振り返ると、竜太も席を立っていた。  え、ヤダ。アイツも居眠り? なんで竜太と二人きりになるような状況に! 一気に身体が強ばった。  急いで手洗い場に向かい、顔ではなく、冷たい水で手を洗って、さっさと教室に戻ろうと考える。 「あのさ。俺のこと、あからさまに避けんなや」  さっと横で蛇口をひねる彼がいた。 「別に避けてなんかいないよ。花梨ちゃんと一緒にいなくなったから、そっちが余所に行っちゃったんじゃん」 「あー、そうとも言うかもな」  そこで。互いの会話が切れる。 「なんで今日は、髪を結ってないんだよ」 「そんな日だってあるよ」
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