9.恋はお終い、小さくても愛なの①

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 だからって。小鳥は申し訳なくは思わない。そして彼等に、きちんと今こそ告げるべきだと毅然とする。 「そうして。私、ずっと同じ人を好きだし……。これからもきっとその人が好き」 「そっか。それでも納得しなかったら、あいつ、当たって砕けに行くと思うから、頼むな」 「わかった。ハンパなことしない。はっきり言うよ。私の今の気持ちを……心苦しくても。そして気にかけてくれて有り難うって言う」 「うん、安心した。じゃあ、それだけ」  すっと、潔く――。竜太が背を向ける。ネクタイを緩めている夏シャツの後ろ姿。彼の茶色の毛先が耳元をくすぐる、そんな夏風が吹いてくる。  そのまま、行ってしまうと思ったのに。竜太は途中でまた立ち止まった。 「そいつ。お前のことどう思ってんの」  竜太にもきちんと言うべきなのだろう……と、小鳥は口を開く。 「まだ子供だと思ってる」 「望み、あるのかよ」  背中を向けたままの、問い。だけど小鳥は竜太の顔を思い浮かべ、背中に向けてまっすぐに告げる。 「……いまは、ないかな。でも、前よりずっと好きになってしまったから。私も当分、その人をずっと追っていくと思う」 「大人、なんだろ。何歳」 「……二十八」 「父ちゃんの会社の人間?」 「うん」 「元ヤン?」  その問いにはちょっと、小鳥は眉をひそめたが。 「ううん。地元の国立大を出た人だけど。親父さんに憧れて、うちに来ちゃったんだって」 「へえ」  背を向けたまま、竜太はそこでずっと立ち止まって歩き出そうとしなかった。  まだ何かを聞き足りないのか。小鳥は次の問を待ってみた。 「そいつも。車が好きなんだ」
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