9.恋はお終い、小さくても愛なの①

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「それが瞬時にできるお父さんはなかなかいない――。私の父がそう言っていました」  え、そちらの。お嬢様な貴女の、お父様が?   小鳥も自宅まで謝罪に出向いたが、彼女の家は如何にもエリート社員の持ち家といった風で、ガレージにはBMWとワーゲンのポロが駐車してあった。つまりお金持ち。そしてお母様は上品な奥様で、小鳥はまだお父様には会っていないが英児父が言うには『あれは、お育ちの良いエリートだぜ』といった感じらしい。彼女を見てもお育ちがよいお嬢様。彼女が『パパ』と言えば、とっても似合っていて、そしてお父様もきっとその通りにパパと呼ぶに相応しい穏和な人なのだろう。 「その父が、滝田さんのお父さんが乗ってきた日産の車を見て、とても興奮していました。やっぱり男同士なんですね。車のことも庭先で長く話し合っているから、最後には母が呆れて笑っていましたし」  そうだったんだ? と、父から聞かされていない男親同士の一コマがあったようだが、小鳥には『良くあること』として直ぐに目に浮かんでしまった。 「今度、父も龍星轟に持っていくとかいって。名刺の交換までしていたんですよ」 「わーっ。もう、父ちゃんったら……。謝罪の為にそちらに行ったはずなのに、そこで商売ッ気だしたみたいで、なんかもう……」  ごめんなさいと呟こうと思ったら、眼鏡の彼女が優しく小鳥の顔を覗き込む。 「そんな下心なんて微塵も感じませんでしたよ。母も言っていました。そこにいるだけで、心を開きたくなるような、裏表や駆け引きなんかまったく無い真っ直ぐなお父さんなんだろうねって」
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