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ただでさえ矢野じいは、じいちゃんにしては龍星轟のジャケットをぴしっと強面で着こなしてキビキビとしているので、若い子には怖い人に見えてしまうのではないかと小鳥は思っている。
「ちょっと矢野じい。女の子のことそんなにじろじろ見ないでよ」
かと思ったら、あの強面があっという間に泣き崩れるような顔に変化したので、小鳥もギョッとした。
「おめえ……よかったなあ。そんな怪我させた、怪我させられたはずの間柄なのに。こんな家にまで連れてくるまで親しくなっているなんてようっ」
うわ……。本当に涙ぐんでる! 小鳥はますますたじろいだ。やっぱり矢野じいは『もう年寄りだ』と思った。前は親父さんをビシバシ叱りとばして、英児父が小さく見えたほどにこの龍星轟でいちばん威厳がある人だったのに。
「ええっと。誰ちゃんかな。ありがとう、ありがとうな。うちの小鳥をよろしくおねがいします、おねがいします」
うわーうわー。矢野じい、恥ずかしいからもうやめて! と、小鳥は矢野じいを元の仕事に戻した。
だけど、スミレはやっぱり優しく笑っている。
「お祖父さんなんですか」
「ううん。親父さんの元上司。今は引退して相談役。でも生まれた時からここにいるから、やっぱりお祖父ちゃん同然なんだよね」
「えー。いいですね。お店の方が家族同然だなんて」
その後も、ガレージから出入りしている従業員一同が『小鳥、おかえり』、『小鳥ちゃんおかえり』といつも通りに声をかけてくれ、なおかつ、スミレを見つけて『いらっしゃい!』と気のよい声をかけてくれた。
……だけど今日、そこに、翔兄はいなかった。
「すごい。活気がありますね」
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