恋はお終い、小さくても愛なの②

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 ドアを開けようとした小鳥の目の前に、自分より少し背丈がある茶髪の弟が制服姿でそこに立っていた。 「間に合った。これ、忘れもん。祖母ちゃんが二階まで届けに来た」  聖児が帰宅した時、二階に持ってきた鈴子祖母がうろうろしていたとのこと。足が不自由な祖母に何度も階段を上がり降りさせたくなかっただろう弟が引き受け、届けに来てくれたようだった。 「ありがとう、聖児」 「姉ちゃんのダチ? みたことねーな」  近頃生意気な上から目線が、自分たちより小柄なスミレに注がれる。聖児が上からじいっと微笑みもせずに見下ろすのでスミレが怖がっているのがわかった。  聖児のこういう態度がたまに誤解を招くのだが、実は聖児は人見知り。ぶっきらぼうに言い返してしまうのは、人見知りの裏返し、上手く気持ちが伝えられない不器用なところがある。  いまがまさにそれ。小鳥はまたこれかと溜め息を小さくつきながら、弟に告げる。 「このまえ、怪我をさせちゃった二年の女の子だよ」  すると聖児も驚いた顔をした。 「マジで? 今日はどういうなりゆき」 「彼女、手芸部なんだって。それで意気投合しちゃって、祖母ちゃんのレエス編みを一緒に教わることになったんだ」 「へえ、それで祖母ちゃんのところに忘れ物」  聖児がそこで手に持っていた小さな薔薇模様のペンケースをスミレに差し出した。 「うちの姉が迷惑かけました」  これまた微笑みもなくぶっきらぼうな物言いだったが、聖児は丁寧に頭を下げた。弟にまでそうされると、小鳥もまた情けない思いがぶり返してくる。
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