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そしてスミレは、恐る恐る、茶髪の無愛想な聖児から差し出されているペンケースを受け取った。
「いいえ。こちらの皆さんにはよくして頂いたから、もう本当にこれ以上は……かえって申し訳ないです。ですけど、弟さんまで……。本当にこちらの皆さんって、気持ちがひとつなんですね」
下級生の弟にまで、彼女は丁寧な受け答えで丁寧にお辞儀を返してくれる。そんな彼女を、聖児がじっと見ている。
「おい、小鳥。GTR、持ってきたぞ」
父に呼ばれ、小鳥はスミレを連れて外に出る。
スミレが助手席に、小鳥は後部座席に乗り込み、エンジンを唸らせる父の運転で彼女を学校まで送った。
英児父と帰宅して、二階自宅に戻るなり聖児に聞かれた。
姉ちゃん、あの先輩、どこのクラス。
聞きづらそうにしているけど、ストレートに尋ねてくる。遠回りは好きじゃない聖児らしいと小鳥は思いながら、『その予感』などなかった顔をすることにした。
スミレの名前とクラス、そしてどんな家庭か小鳥は教えてあげた。
その数日後だった。聖児が急に髪の色を元の黒髪に戻したのは――。
―◆・◆・◆・◆・◆―
聖児が黒髪に染めた頃。スミレと親しくなっても、竜太との間に互いの気持ちに折り合いがついても――。
花梨ちゃんは戻ってこない。
そして。龍星轟に翔の姿もなかった。
「専務、おはようございます」
今日も学校へ出かける時、開いているドアから見える事務所へと挨拶をしたのだが、そこに武ちゃんはいても翔兄はいなかった。
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