恋はお終い、小さくても愛なの②

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「寂しいね、翔がいないと。正直、俺も出来るアシスタントがいなくて困っているんだよね。整備関係でも翔担当の仕事の振り分けも大変だったし、事務所の補佐にしても、業務上の損害デカイよ」  そんなことをつい子供である小鳥に漏らしてしまったのか、眼鏡の武ちゃんがハッと我に返りいつものおじさんの笑顔になる。 「いってらっしゃい。気をつけてな」 「いってきます……」  いま、この龍星轟に翔はいなかった。    岬から帰ってきた朝方。龍星轟で寝ずに待っていた英児父と琴子母が事務所で待ちかまえていた。帰ってきた翔が『申し訳ありませんでした。覚悟は出来ています』と頭を下げ、上司である父に謝罪した。だが父の怒りの形相は相当なもので、ただならぬ気迫を放っていた。  母もハラハラした様子で英児父の背中で見守っていたが、それは小鳥も一緒で。『父ちゃん、クビにしないで!』そう言おうとしたら、その前に英児父が翔の胸ぐらを掴んで拳一発、鉄拳で翔を吹っ飛ばした。  本当に事務所の床に翔が飛んでいったので、さすがの小鳥も悲鳴を上げてぶっ飛ばされた彼のところに駆けていったほど。しかし、そんな小鳥も首根っこを掴まれ、平手打ち一発、頬を張り飛ばされた。 『翔は五日間の謹慎、小鳥は小遣い一ヶ月なし。わかったか!』  殴られて項垂れる翔と小鳥だったが、そこでは二人揃って素直に頷いていた。 『今夜のことはこれでもう終いだ。これで済ませるから、今後、うじうじごちゃごちゃを龍星轟に持ち込むんじゃねえぞ。次は許さねえから覚えておけ!』  今まで実直に勤めてきてくれた翔だからこそ、英児父も謹慎で済ませたことが二人揃って通じた。
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