恋はお終い、小さくても愛なの②

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 翔がMR2で帰ってしまった後、それでも小鳥は部屋で泣きさざめいた。彼が叱られたとか、父親に頬を叩かれたとかそんなことのショックじゃない。一晩で起きた様々なことがその時になって一気に襲ってきて受けきれず、この時なって溢れ出てしまったのだ。  案じた琴子母がもう明るく日が射し始めた部屋にやってきた。 『大丈夫』と昔のまま優しく抱きしめてくれた琴子母が小鳥の頭を撫でながら静かに教えてくれる。 『お父さんも泣いていたわよ。俺だって殴りたくねえよって。お父さんも落ち込んでいるのよ』  時に『悪者にだってなれる、恨まれ役も出来る』。それが上司で親だってことを、小鳥は知った気がした。 『わかってる。父ちゃんのこと、悪く思ってない。翔兄もきっと……』  でも小鳥は少しだけ案じている。 『お兄ちゃん。龍星轟に帰ってくるよね?』  少し間をおかれたのが気になったが、琴子母は『大丈夫。ここが好きだから彼は帰ってくるわよ』と言ってくれた。ただそれだけで小鳥は泣きやむことが出来た。    ――謹慎五日。それが終わった。今日、彼は出てくるはずなのにいない。    小鳥の中で渦巻く不安。真面目な翔兄がまた一人で『俺は情けない男だ』と自分を責めていないか案じていた。  だけど。英児父も上司としてじっと待っている姿を小鳥も見ている。殴ったことが吉と出るか凶と出るか。じっと堪えて無言で待っている父が、取り外された古いMR2のタイヤを触っていた姿があったから。  だから、小鳥もじっと待っている。また龍星轟が俺の生き甲斐と言って、再生していく彼の姿を思い描いて――。   「小鳥」  
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