10.愛車は青い『エンゼル』

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 相変わらずの仲の良さで、旅行から帰ってくると、なんだかいつも以上にくっついているようで、まったく子供の目から見ても呆れかえること多々。特に、英児父が。  行ってきますと玄関を出て、一階事務所裏通路へと階段を下りる。  今日は土曜日。朝から龍星轟は休日で集まる顧客を迎え入れる準備で忙しそう。あまり邪魔をしないように……と思い描きながら、暗い通路から裏口を出ようとしたら。 「おう、琴子。今日はどこか行くのか。仕事か」  そう呼ばれ、小鳥はびっくりして振り返る。  龍星轟ジャケット姿の矢野じいがそこにいた。 「お、お、お前。小鳥かっ」  矢野じいも小鳥の顔を見てびっくりしている。 「そ、そうだよ。私だよ、小鳥だよっ」  でも、どうして間違えられたのか。驚き顔を見合わせている小鳥も矢野じいもわかっている。 「おめえ。後ろ姿が琴子とそっくりになってきたな」 「そっかな。お母さんに似てきたなら嬉しいな」  近頃、昔ながらの顧客のおじさんや、整備の兵藤おじさん、清家おじさんにもたまに言われる。『若い頃の琴子ちゃんに雰囲気がそっくりになってきた』と。後ろ姿なんてドキッとすると言われると、小鳥も嬉しくなってしまう。  今日はついに、矢野じいまで……。  それでも絶対に間違えない人が二人いるんだよね。と、小鳥は男二人を思い浮かべる。きっとその二人は、もし小鳥と琴子母がほんとの双子姉妹として生まれても、見分けてしまうんだろうなと思うほど。  矢野じいにも今日は隣県の『高松と坂出の瀬戸大橋まで行くんだ』と伝えると、『気をつけて行ってこいよ』と見送られる。
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