10.愛車は青い『エンゼル』

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 事務所の前を通って、ガレージまで。隣のピットは父を始めとする整備士が全員作業をしていて、整備フル回転と忙しそう。それを横目に、小鳥はガレージに向かい……愛車……。 「な、ない!」  父と母、そして娘の愛車が並べてあるガレージ、そこを見て小鳥は驚愕する。  ない! 私の愛車がない!!!  その次に直ぐに浮かんだのは『またか』だった。頭に血が上り、小鳥は隣のピットへ駆け込んだ。  何台も並べられ整備されている車の中に、青い愛車があった。しかも触っているのは、英児父! 「父ちゃん! また勝手に触ってる!! 私、今からそれに乗って出かけなくちゃいけないのに。なんで勝手にいじってるのよっ」  だけれど、英児父は『こんなこと当たり前』と言わんばかりの険しい顔でこちらを見たので、愛車の主である小鳥の方がビクッと固まった。 「うっせい。おめえ、よくこんな状態の『エンゼル』で走り回っていたもんだな」  ――『エンゼル』。父はあの青いMR2をいつの間にか、そう呼ぶようになっていた。雅彦おじさんが、小鳥だけのステッカーに『エンゼル』を描いたことが由来している。  そんな小鳥の愛車、青いMR2はエンジンルームをガパッと開けられ、ノートパソコンで繋がれ、チューンナップの真っ最中。とてもじゃないが、今すぐやめてくれと言えない状態にされている。 「今日じゃなくてもいいじゃないっ。昨日、言ったよね。私、今日、その車で友達と出かけるんだって」  するとそこでは、英児父が少し申し訳なさそうに表情を緩めたが、直ぐに思い直したようにして元の鋭い眼光をこちらに放ってくる。
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