10.愛車は青い『エンゼル』

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「この車を運転したけどよ。エンジン、ぜんぜんダメだわ。おめえ、こんな状態で今日は高速を走るのかと思ったら、やっぱ我慢できねえっ」  この車を運転した?? 「またいつの間に、私の『エンゼル』に勝手に乗ったのよっ」 「まだ俺名義の車だ。俺のもんだ」  うっわー。それを言うっ。  まだハタチになっていない小鳥がそれを言われたら、ぐうの音も出ない。  でも、小鳥はここでぐっと我慢。だって、だって。『ハタチまであと少し』だから。  拳を握って弱い立場であることをぐっと堪えていると、英児父が整備手袋を外しながらやってきた。 「悪かったよ。でもよ、ちょっと前から気にしていたんだよ。なのにお前、いつもどこかへこれに乗って出かけちまって。全然、整備する暇がなかったからよ」  確かに、小鳥は大学生になってからとても忙しく過ごしている。家にいることがほとんどないかもしれない。 「バイトも忙しいんだろ。お前、整備士を目指している訳じゃないんだからよ。本格的なところはプロの父ちゃんにやらせてくれねえか。龍星轟のステッカーを貼っている以上、ましてや、たった一枚しかないお前だけのエンゼルステッカーを掲げて走っているんだからよ。俺の娘がこんな車で走っているだなんて我慢できねえんだよ」  エンゼルは龍星轟の娘の車。走り屋の男達から見れば、娘の車は、龍星轟社長の車であることは同然と見られる。それは小鳥も夜の道を走っているとよく感じる。だから。 「うん、わかった。……その、ほんとは、有り難う……」
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