2355人が本棚に入れています
本棚に追加
「この車を運転したけどよ。エンジン、ぜんぜんダメだわ。おめえ、こんな状態で今日は高速を走るのかと思ったら、やっぱ我慢できねえっ」
この車を運転した??
「またいつの間に、私の『エンゼル』に勝手に乗ったのよっ」
「まだ俺名義の車だ。俺のもんだ」
うっわー。それを言うっ。
まだハタチになっていない小鳥がそれを言われたら、ぐうの音も出ない。
でも、小鳥はここでぐっと我慢。だって、だって。『ハタチまであと少し』だから。
拳を握って弱い立場であることをぐっと堪えていると、英児父が整備手袋を外しながらやってきた。
「悪かったよ。でもよ、ちょっと前から気にしていたんだよ。なのにお前、いつもどこかへこれに乗って出かけちまって。全然、整備する暇がなかったからよ」
確かに、小鳥は大学生になってからとても忙しく過ごしている。家にいることがほとんどないかもしれない。
「バイトも忙しいんだろ。お前、整備士を目指している訳じゃないんだからよ。本格的なところはプロの父ちゃんにやらせてくれねえか。龍星轟のステッカーを貼っている以上、ましてや、たった一枚しかないお前だけのエンゼルステッカーを掲げて走っているんだからよ。俺の娘がこんな車で走っているだなんて我慢できねえんだよ」
エンゼルは龍星轟の娘の車。走り屋の男達から見れば、娘の車は、龍星轟社長の車であることは同然と見られる。それは小鳥も夜の道を走っているとよく感じる。だから。
「うん、わかった。……その、ほんとは、有り難う……」
最初のコメントを投稿しよう!