10.愛車は青い『エンゼル』

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 車は好き。タイヤ交換とかオイル交換やエンジンルームの管理とか、ある程度は自分で出来る。だけれど、小鳥の夢は『車屋』ではなかった。いまは『小鳥が選んだ夢』に向かって出来る限りの準備を始めているところ。  小鳥の今の『アルバイト』は、それに通ずる職種だった。父と母もそれを受け入れて、応援してくれている。整備士を目指して頑張っているのはむしろ弟の『聖児』。  だから車の手入れは自分で出来ても、エンジンや足回りの完璧な調整は、やはり父任せになっていた。それは感謝している。父が触ると、断然、走りやすくなるは確か。 「出かけるなら、どれでも好きな車に乗っていけ」  それを聞いて、小鳥はびっくり目を見開いて父を見上げた。 「ど、どれでもって」 「事務所から好きなキーを持っていけ。そのかわり、事故ったり、ぶつけたりしたら、免停同様、暫く車に乗せねえからな」  それってつまり、つまり!? 小鳥はさらに念を押すように聞いた。 「ハ、ハチロクでも?」  大学生になってやっと車の免許を取れた後、何度か父の隙を狙ったことがあるが、どれもこれも阻止され絶対に叶わなかったハチロク乗車。まさか、それも? 「ああ、いいぞ。俺のスカイラインでも、琴子のフェアレディZでも、ハチロクでも、シルビアでも、GTRでもなんでも乗ってけ」 「ほ、ほんとに、ほんとに!?」  と言いながら、小鳥はもう事務所の社長デスク背後にあるキーラックへと走り出していた。  事務所に駆け込んで英児父のキーラックへ、一目散。当然! 憧れのハチロクのキーを……!  だけど、そこで小鳥は手を止めた。  二年早く生まれただけで、俺より先に乗れるのは不公平だ。  そんな弟、聖児の声が聞こえてしまった……。
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