10.愛車は青い『エンゼル』

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 グッと堪え、キーを取ろうとした手を引っ込める。いや、こんな機会滅多にないよ、これからも父ちゃんは乗っていいとは滅多に言ってくれないかも。そんな小鳥の葛藤。  でも。小鳥は、ずっと憧れてきたからこそ、弟の気持ちもよくわかってしまう。二人一緒に憧れてきた親世代往年の人気車。  ――聖児が免許を取ってからだって乗れるかもしれない。  それからでも、いいのではないか。ついにそのキーを取ることが出来なかった……    ガレージから小鳥はその車を運転して出し、ピットから出てきた英児父に何を選んだか見せる。 「小鳥。お前、ほんとにそれでいいのか」  小鳥は『銀色の車』から降りて、英児父の前で呟く。 「うん。お母さんのゼット、今日は借りていく」  唖然としている父の顔。たぶん『どれでも』と言いながらも、『ハチロクに乗っていけ』という無言の許可だったのだろう。そういうチャンスを与えてくれていたのに。 「ハチロクは、聖児が免許を取ってから二人揃って乗せてもらう」  そして父も、娘が姉として考えたことを理解してくれたのか何も言い返してこなくなる。ただ、呆れた顔もしている。 「でもよ。なんでゼットなんだよ」  これまた不満そう。ハチロクでなければ、どうしてスカイラインじゃない。親父の車じゃない。母親の車なんだと言いたそうな顔だなあと小鳥は察した。 「だって。スカイライン、なにもかも重いんだもん」  免許を取って直ぐ。峠の走り方を教えてくれたのは、やはり父だった。娘が翔から譲り受けた青いMR2の助手席に乗り込み、夜の峠道をどう走るか。小鳥の『走り屋師匠』だった。
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