10.愛車は青い『エンゼル』

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『うちの娘は国大の男が探している女性像じゃない?』と、英児父の頬が引きつった。だけれど、そこも翔兄は慌てず静かな口調で続ける。 「あちらのサークル部長が、最初は小鳥にちょっかいを出そうとしていたようですけど」 「うちの娘を狙っていただとおっ」  男から対象外でも対象でも、とにかくいきりたちそうな英児父だが、そんな父を制するように翔兄は落ち着いて突き進む。 「小鳥は『私は助手席なんか絶対乗らない』と言い張っているようなんですよ」 「……ほう? なるほど?」  車屋の娘は男に運転してもらう車になど乗りたがらない。それを知って、やっと英児父の勢いが緩んだ。 「だから小鳥といたい彼が『じゃあ、助手席で』と、MR2に乗せてもらったものの、峠での小鳥の豪快な運転に目を回してへばったらしくて――」 「ほうほう」  徐々に車屋親父の頬が緩んできたのを小鳥も見る。 「以後、彼も他の男性部員も『小鳥と付き合うには、余程の覚悟が必要』と胸に刻んだらしいですね」  親にはいちいち話さないことだけれど、翔兄にはそんな話をよく聞いてもらっている。今度は翔兄がそれを『今話すべき』とばかりに、英児父に伝えてくれている。  いまの話は本当の話。小鳥のことを気にして声をかけてくれる男子大学生は数人いたけれど、根っから『走り屋親分の娘』と小鳥の運転で『体感』すると、綺麗で可愛くて付き合いやすい女の子を欲している彼等には『ただの女友達』へとあっという間に降格してくれる。  だけど、小鳥もそれは自ら狙ってのこと。  だって。必要ない。好きな人はずっと前から一人だから。
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