10.愛車は青い『エンゼル』

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「翔兄、ありがと~。助かったー」  傍にいる彼が、いつもの八重歯の笑みを見せてくれる。 「親父さんらしいけどな。娘だから余計に心配だろうし、小鳥が大人になってしまうのが寂しいのかもな」 「そうなのかなあ」 「ああ、でもよかった。高松までついて行けと言いだした社長のあの目ったら、もう。本気だったもんな。ちょっと焦った」 「えー、ぜんぜん落ち着いていたじゃん」  どこが焦っていたのかと小鳥は思ったのだが。でも、それが翔兄というものだった。彼のあの冷静さは皆が知るところ。淡々とあのロケット親父の感情を上手く宥めてくれるようにもなってきて、武ちゃんの次に英児を扱える男と矢野じいがたまに言うように――。 「でもな。俺も、ちょっと社長に同情するな」  龍星轟ジャケット姿の翔兄がすぐ目の前で小鳥を見下ろしている。その意味深な眼差し、そして、何か含んだような意地悪い微笑みに小鳥も気がつく。 「どうして? 私、普通に大学生をしているだけだし。親に迷惑をかけるようなお騒がせにまでにならないよう気をつけてもいるし、男子との付き合い方や距離の置き方にも気をつけているよ。翔兄だってそれ知ってるでしょ」 「小鳥の堅実な大学生活は、親父さんだってちゃんと認めているだろう。でもな、男の目は小鳥の意志とは反して、小鳥は女だというところに向いてしまうんだよ」 「だから。それも気をつけているじゃんっ」  今度は、翔が英児父のような『注意しろ』という小言を言い出したので、小鳥は顔をしかめた。  こんな時、お兄ちゃんはちょっと先を生きてきた経験者として、小鳥を上から見ることがある。お前、まだ何もわかっていないなという眼差し。
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