10.愛車は青い『エンゼル』

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 そうして、密かにむくれていると、彼の溜め息が上から落ちてきて、小鳥はますます苛ついた。 「ここ。気がついてないんだな」  不機嫌な小鳥を見下ろして、彼が笑いながら小鳥の首元を指さした。  何が? と、小鳥はその長い指先を見下ろす。 「あのな。俺もちょっと目の毒」  見下ろした彼の指の先は、首元ではなく、ボタンを外して開いている襟と襟の間。そこから見える素肌だということに小鳥も気がついた。  小鳥の目線からでも、白い乳房の谷間がほんのり見える。ということは? もっと背丈がある翔兄にも、父親からも、見えていた?  やっと小鳥もハッとした。 「だ、だって。雅彦おじさんが。シャツを着ればお前は、いつも首元までぴっちりボタンをとめやがって……、ボタンをはずして程よく着崩せって教えてくれたからっ」  第二ボタンまで開けていた。鏡で正面から見た時はそんなに開いていないと思ったのに。上から見ると、男性の目線からだとそう見えるということに初めて気がつかされる。 「それは本多マネージャーの前だけにしておけ。……まるいのふたつ、けっこうあるんだから。自覚しろよ」  そういって。小鳥の胸元に翔の指先が触れる。ボタンをひとつ、ふたつ。優しく静かに首元までボタンをとめてくれた。 「どっちかというと。俺的には、こういうキッチリしちゃう小鳥の方が、……らしいんだけどな」 「お兄ちゃん……」  お洒落に着こなさなくても、それが小鳥。そう言ってくれる男の人。そして肌を守るように、ボタンをとめてくれた指先。  こんな、この人が好き。今も好き、ずっと好き、もう大好き。どうしたらいいの? 抱きつきたい。
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