2356人が本棚に入れています
本棚に追加
こうなると、小鳥はもっとアクセルを踏みたくなる。だけど……メーターを確認して、その足を緩めた。
父にそう教わっている。そこに陶酔してはダメだ。どうしてもそれをしたいなら、それが出来る許されている場所を選び覚悟をもって運転しろ。それが車の愛し方だと。
ステレオから流れてくる曲もそれを知ってか、ゆっくりめのバラードに切り替わる。
小鳥も肩の力を抜いて、ただ暗闇に次々に現れる行き先を見据え、アクセルを踏む力を一定に保つ。
今夜は、私、一人……。
約束したけど。
だからって、無理矢理に一緒にいて欲しい傍にいて欲しいと合わせてもらったことなど一度もない。
ダム湖に行けば、彼がいつもつるんでいる青年軍団の一人に過ぎない。
お兄さん達と走って、笑顔で別れる。ただし、そんな若い男性達と一緒にいる時は、翔兄は必ず小鳥の傍にいてくれた。
……たぶん。上司の娘だから、悪さでもされないよう気遣ってくれているのだろう。
そう思っているし……、小鳥自身も、自分に甘くなる都合が良い考えは持たないようにしていた。持てば期待してしまう、期待したら……欲張りの始まりだから。そしてその果てにガッカリして落ち込んでしまうから。
『ダム湖で待っている』。
翔兄との約束はいつもそれ。
とにかくダム湖で落ち合うことになっている。
誰もいない時もあれば、今夜のように誰かが集まっていることもある。
こういう時は、だいたい『男同士でどうぞ』と小鳥は遠慮する。誘われたらついていくこともあるけれど、基本はそうしている。
今夜もだから。小鳥はダム湖でお兄さん達と別れた後、『一人でも行こう』と決めていた場所を目指している。
最初のコメントを投稿しよう!