2356人が本棚に入れています
本棚に追加
何も言わなくても、小鳥が行こうとしている場所をわかってくれている。……これはもう『一人の決意』ではなく、『今夜は当たって砕けろ』に変更決定のよう。小鳥の中に、何とも言えない緊張が少しずつ心臓にじわじわと迫ってくる感覚。
夜の瀬戸内海がひっそり優しく光る国道をまた一緒に走る。青と白のトヨタ車二台は、ついに岬へ向かう峠道に。
小さな街灯しかない狭い峠道を、走り屋仕様の車がエンジンのうなりを潜め、静かにのぼっていく。そして二人の車は、大きな灯台が照らす灯りの中へ共に辿り着いた。
なにもない真夜中の駐車場に、たった二台の車。白いスープラの運転席から、彼が降りてきた。小鳥もシートベルトを外しドアを開けると、側に来てくれた翔兄がもうそこに立っていた。
「今夜はずいぶん遠いところを目指していたんだな」
やっぱり。不機嫌そうな声。
「うん。そんな気分だったから」
「夜、ここに来るということは夜中の到着になり、帰りは朝方になる――ということをわかっていて……」
『何が悪いか、子供じゃないから判っているよな』なんていう、そういう彼の諭すような上からの目線が時々小鳥を苛立たせる。だから、さらに小言を言われる前に自分から遮る。
「お母さんには、今夜は『岬に行って帰ってくる』とちゃんと伝えている」
すると、翔兄が少し驚いた顔を見せた。
「オカミさんが……? 許してくれたのか」
「くれたけど。それがなにか?」
ちょっと素直じゃない切り返しをしてしまう。そして彼が驚いたのも無理はないかと思う。小鳥には今まで『門限』があった。だけどハタチを過ぎたら門限は解除ということになっている。ただし何に置いても自己責任ときつく言われている。
最初のコメントを投稿しよう!