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それでも時々、遅くなることはあった。きっちり守っていたが、バイトを始めた頃から、両親も徐々に目くじらを立てなくなってきた。それも小鳥がきちんと遅くなる時は連絡を入れているからかもしれない。
今日も事前報告の上、ここに来ることに決めていた。
小鳥が岬に行きたいことを知っているのは、琴子母だけ。『気をつけて行きなさいよ』と寛大に受け入れてくれた。英児父には伝わっているかどうか知らない。ただ母には『ハタチになる前に、夜の灯台を見たい』と伝えた。母は『何故』と当然問い返してきた。『二十歳になってからでも行けるでしょう』と。当然の返答だと小鳥もわかっている。だから小鳥は言い換えた。
『ハタチになる前に、そこに行って、決めたいことがある』
そういったら、母が少し心配そうな顔をして、暫く考えた後に『わかりました』と承知してくれた。
そして母も言った。
『あの灯台ね。お母さんもちょっと困ったことがあった時、お父さんが真夜中に連れて行ってくれたことがあるのよ。結婚する前、婚約したばかりの時』
『え、そうなの』
母はそれ以上の詳しい経緯は話してはくれなかったが、『うん、そうなの』と年齢を感じさせない愛らしい微笑みを見せてくれた。
それが母にとっては大事な想い出なのだと小鳥には思えた。
お互いにそこで、好きな人と真っ暗闇を照らす大きな灯台の頼もしい灯りを見て、何を思う。小鳥はきっと母も一緒だったのではと感じていた。
『小鳥ちゃんは、一人でいいの?』
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