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その一言に小鳥の胸がずきりと痛んだ。そして母には何もかも見抜かれていることもわかってしまう。今度は小鳥が照れくさい。でも……。母はもう『同じ女として向き合ってくれている』と悟った小鳥は。
『わからない。一人かも、一人じゃないかも。でも行ってくる』
『ちゃんと帰ってきなさいよ』
うん――と、頷いて。この夜龍星轟を出てきた。
だから翔は、英児父お馴染みの口うるさい不許可より、静かに黙っているがいざという時は誰もがそのたった一言に従ってしまう琴子母からの許可に驚いているだろう。
「そうか。オカミさんが許してくれていたのか。なんだ、それならいいんだけどな」
なに。お母さんが許してくれたなら、お前一人でも良かったんだな。俺がついてこなくても良かったんだな。そう聞こえたんだけど?
小鳥は密かにむくれて、運転席から降りたくなくなった。
だけれど彼は、いつもここに来た時と同様に、まず岬が見下ろせるところまで行ってしまう。
「んー。最西端のこの岬は遠いけれど、やっぱりここはいいな。充分に走れるし、到着した時の達成感もたまらない」
龍星轟のジャケット姿のまま、『んー』と伸びをする彼の後ろ姿。小鳥はドアを開けたままの運転席から、そんなお兄ちゃんを見て呆れた溜め息。
なんで私がここに来ようと思ったのか。あの人は少しでも考えて、ここまで一緒に来てくれたのだろうか――と。
それに、この岬。二年前に、貴方がメソメソした場所なんですけどね。
のんきなだけの『いつも通りのお兄ちゃん』を横目でみつつ、小鳥は胸の中でそんな嫌味を吐いていた。
だから。小鳥はここに来たかった。
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