2356人が本棚に入れています
本棚に追加
冬のコートも羽織っていない、龍星轟ジャケットだけの翔兄。白い息を吐きながら、運転席から降りてこない小鳥のもとに戻ってきた。
彼が訝しそうに小鳥を見下ろしている。
「どうした。なんか変だな」
小鳥は言い返さなかった。彼がそれでも小鳥の言葉を待っていてくれる。息が詰まりそうだった。
「コンビニで夜食を買っておいたから、俺の車まで来いよ」
「うん」
これもいつものこと。どちらかが『夜食』を準備して、どちらかの車で一緒に食べて話をする。
「少し疲れたから。仮眠を取ってから戻ろう」
「うん」
これも。たまにあること。どちらかの車で一緒に仮眠を取る。だからといって身体に触れ合ったことなど一度もない。無事故の健全なドライブを守るために必要なこととして割り切っている。
お互いに運転席と助手席で、一時間から二時間ほどの仮眠を取る。今まではそれだけでも小鳥は嬉しかった。あのお兄ちゃんと一緒にいることが、こんな時も彼が小鳥を隣に置いてくれていることが。
「ほら。温かいレモネード」
「ありがとう」
彼ももう、小鳥のことをなんでも知っている。何が好きで、嫌いか。小鳥の日常にあることは、良く把握している。
彼は家族に近い。父の部下であって、一家が住まうそこが職場。つねに上司の家族が寄り添う日々を共にしてきた『お兄さん』。
妹のように、よく知ってくれていることは当たり前……。それが彼であることが嬉しい時もあり、今夜のように『お兄ちゃんは、家族のようなお兄ちゃんではないのに』と、もどかしい時も幾度もあった。
スープラの車内、運転席と助手席に並んで一息つく。
最初のコメントを投稿しよう!