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だけど。なんだか。やっぱり翔兄は翔兄。あの人が好きなのに、彼と話しているとまったく遠く感じてしまうのは、子供の頃から変わらなかった。
そう。やっぱり子供? 上司の娘? だからこんな夜中に二人きりでも、一緒に眠っても、平気な顔。
それだけじゃない。『彼は女心なんて、きっとわからないんだろうな』と、ずっと思っていた。それとも、わかっていて知らぬふりなんて意地悪をしているのだろうか? だけど、もうこの二年でわかっていた。このお兄さんは前者。『女の気持ちは、よくわからない人』なのだと。良く言えば女に媚びない硬派だけど、そこだけが鈍感で、そして彼の最大のウィークポイントだと思った。
今の小鳥なら『瞳子』の気持ちと苛立ちが、とても良く理解できる。こんなに女心を察してくれない彼氏を何年も待っていた彼女はすごいし、あそこでケジメをつけて別の道を女として選んだことも致し方ない決断だったのだと理解できた。
スープラのトランクが開いて、いつも彼が準備している大きな毛布をふたつ、抱えようとした時。彼も運転席から降りてきた。
彼は後部座席からスポーツ観戦でよく見かける長いベンチコートを手にしている。
「毛布だけだと寒いから、これも着たらいい」
それを手にして小鳥の目の前に。毛布を抱えている小鳥にそっと背中から羽織らせてくれる。
「お兄ちゃんは。お兄ちゃんも薄着だよ」
だけど彼は笑って、後部座席から同じコートを手にして小鳥に見せた。
「大丈夫。俺の分もある」
俺の分もある。かえせば、『小鳥の分もちゃんと一緒に準備した』ということ。
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