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もう胸がドキドキ、大きく脈を打っていた。そして小鳥の指先は震えている。怖い? 怖いんじゃない。初めて男の人に触れられて、とても緊張している。
「男って。お前が思っている以上に、乱暴だったりするんだ。わかっているのか。それとも、もう……?」
「ら、乱暴って? お兄ちゃんはそうしたいの? 手荒くしたいってことなの? 優しくできないってことなの? でも、そういうものなんでしょ。男の人が望むままに女の人に触るって……」
真面目に返すと、翔兄が目の前でちょっと面食らった顔をした。
そして、すぐにくすっと小さく笑い出してしまう。
「なに、なにかおかしかった?」
「あ、いや。うん……、そのよくわかった」
「よくわかった?」
思い詰めていた眼差しが、よく知っている落ち着いている優しい目に緩んだ。そして彼もほっとひと息つけたかのように笑っている。
「……馬鹿だな、俺。だよな。小鳥が、男のこと知っている訳がないよな。だってお前は、どこまでも純粋でまっすぐな親父さんにそっくり。自分の思い通りにならないからと、他に寄り道なんて遠回りなんてしているはずなんか……」
「え、何が言いたいの?」
きょとんとしている小鳥の頬を、彼が優しく両手で包み込み、じっと小鳥の目をみつめてくれる。
「お前の、その、まっすぐなところ。何年もブレずにまっすぐなところ。俺……怖かった。俺なんかに幻想を抱いているだけだって。本当の俺を知ったら幻滅するに違いないって。俺の何を知っている? 年が離れている小鳥から見れば、なんでも出来るように見えているだけで、実際はそんなんじゃない」
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