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そこで彼の唇が離れた。朦朧とする小鳥がそっと胸元を見下ろすと、乳房の端に赤い痣が出来ている。
「もしかしてこれって……。こんなになっちゃうの」
それが自分に初めてつけられたキスマークだと知る。彼がそれを見つめて微笑んでいる。
「これ予約、な」
「予約?」
「ああ。五日後の予約……。ほんとは俺も自信なんてなくて……」
嵐のような肌への愛撫をした人が、もういつものお兄ちゃんの顔で、小鳥の乳房を優しくシャツの奥へと隠してくれる。
「自信がないって……?」
彼もうっすらと汗ばんでいて、すこし湿った黒髪をかき上げながら、そのまま運転席へと退いていく。
「小鳥は、仲間がいっぱいいるだろ。ハタチの誕生日会だってみんながしてくれるんだろ。そういう、同世代の気が合う男に……今度こそ、お前をかすめ取られていくかもなあって。思っていたんだよ」
「なに言っているの。お兄ちゃんだって知っているじゃん。どんな男子が寄ってきたって、私が拒否してきたこと」
「そう。大学生になった途端、小鳥に近づいていくる男が続々――。これはちょっと三十になる兄ちゃんには脅威だったな」
「えー? だってお兄ちゃんの方がずっとずっとカッコイイのに」
「……小鳥も。いい女になったからな」
え、そうみえるの? 思っていなかったことまで告げられ、小鳥は目を見張った。でも運転席では、照れくさそうに悶えハンドルを握りしめてばかりいる彼の姿が。
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