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八重歯がのぞく、あの笑顔。小鳥もそっと微笑む。ずっとずっと恋してきたこの笑顔、遠い触れられないと思っていたこの人が、今夜から小鳥の手に確かな感触。
小鳥はもう一度、翔に抱きついて、自分からキスをした。
そして初めて。小鳥が抱きついて初めて、彼の腕が小鳥の身体を吸い込むように、優しい力で受け止めてくれている。彼の身体の力も抜けて、柔らかに崩れてくれる。
「親父さんにそっくり。思ったままにストレートでロケットのようにぶつかってくる。そんな可愛い小鳥にこれからガンガン愛してもらえるかと思うと……」
彼の嬉しそうな声に、小鳥も返す。
真面目で落ち着き払っているアナタが困るぐらいに、これからは私がたくさん愛してあげる。
誰よりも。いままでの誰よりも、私がいっぱい愛してあげる!
―◆・◆・◆・◆・◆―
まただ。また、ガレージに『エンゼル』がいないっ。
もう呆れてしまい、小鳥は父親に抗議もせずに、そのまま事務所へ向かう。
「武ちゃん……。今夜もお母さんのゼット、借りていくね」
事務所でひとり仕事をしていた武智専務に、『父ちゃんと言い合うのも馬鹿馬鹿しい』とこぼしながら、社長専用キーラックに向かっていた。
「あれさあ。実はちょっとした親父の意地悪かもしれないね」
眼鏡の専務も溜め息をこぼしていた。
「意地悪? なんのこと」
聞き返すと、武ちゃんがどこかに出かけようとしている小鳥をじいっと、眼鏡の顔でみつめる。
「聞いていいかな。その指輪、どうしたの」
聞かれて、小鳥はハッとする。……というか、指につけている以上隠しようもない。だけど、家の者にはあからさまには『まだ』告げられない。
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